27歳

(夏目視点)

もっと他に上等なのや気に入ってるのがあるだろうに、ジャケットのインにオレたちがお土産であげたバナナ柄のオキナワンシャツを着てきてくれるあたり、うちの社長はかわいい奴だと思う。

「退職金と、養子縁組祝いな」

何で出来てるのかわからない料理がとっても美味しい料亭で、姫ちゃんは世界地図をテーブルに広げ、コンパスを取り出すと東京のあたりに針を突き刺した。アフリカから南アメリカまで紙からはみ出しながらぐるりと円を描く。

「おいお前、後で消しゴムで消せよ」
「この円の中全部に姫川財閥の息のかかった土地がある」
「ほんと? 北極海にも、南極大陸にも?」
「どこがいい? 好きなとこどこにでも新居建ててやるぜ」

神崎君のツッコミもオレの追及も受け流し、姫ちゃんは腕を組んでドヤる。夢のような話だ。でもオレたちは決めていた。

「気持ちはありがてーけど、こいつオレんち住むから」
「はあ!? 何が悲しくてこんな広い世界でそんな豚小屋選ぶんだよ!?」
「豚小屋ゆーな。オレは家業だからよっぽどのことがない限り家出れねーし、こいつだって仕事場が住む場所の方が楽だろーが」
「姫ちゃんちほどじゃないだろうけど、一君ちのお屋敷すっごく大きいんだよー。部屋もドッジボールできるくらい広いの」
「信じらんねー……都心の一等地に野球できるくらいだって用意できんのに……」
「逆に住みづれーわ」
「でもねー、今のセミダブルのベッドじゃちょっと狭いんだー。だからお祝いは立派な大きいベッドがいいなー」

ね、一君、とにこにこ同意を求めれば顔を赤くして舌打ちする。
ノロケかよ、ってうんざりした表情を見せてくれるかと思っていた姫ちゃんは、日本酒を一口飲むと、真面目なトーンで言った。

「……おい神崎」
「何だよ」
「こいつ、お前の前ではこんな風にヘラヘラしてばっかかもしんねーけど、オレはこの五年間で結構いろんな顔見てきたぜ。残業続きで死んでる顔とか、話通じねー奴の相手して内心イライラしてる顔とか」
「突然のネガキャンやめてくれる?」
「ハッ、いつだったかお前の誕生日に弁当作って、やってらんねーってわめいてた時の顔見せてやりたかったぜ」
「慎太郎、お前……」
「姫ちゃん!」

あの時めちゃくちゃ感動してた神崎君は、本気でショックを受けた表情になる。やめて!

「一緒に働くっつーことは、今度はお前がそういう顔、見てくってことだ。その覚悟はあんのか?」
「……上等だコラ」

二人は煽り合いながら杯を重ねて、一時間もしないうちにべろべろになった。

「そういう世界だ、清く正しく生きろなんて言わねー。でもたまにはこうして三人で飲めるくらいには、道間違えるんじゃねえぞおー」
「当たり前だろお、お前こそ仕事金仕事金で体壊すんじゃねえぞう」

肩を組みながら、しらふでは絶対言わないだろうことを語り合っている。オレはというとお酒でテンションが変わる体質ではないので、ぽつんと取り残されてひとり料理をつついていた。
さみしくないわけじゃないし、妬かないわけじゃないけど、神崎君にとっては姫ちゃんが、姫ちゃんにとっては神崎君が、オレと神崎君とは違う意味でキーパーソンなんだと思う、高校の頃からずっと。
あーあ、高いベッド買ってもらおうっと。

* * *

「ずっと黙っててごめんね、城ちゃん」
「こいつと付き合ってるのとは別に、お前と三人で神崎組でいたかったんだと思う」

ところ変わって街の居酒屋。
高三の途中から付き合ってたこと、卒業を境に別れたこと、二十一の時によりを戻して、来春からオレは神崎君の組に入ること、そして養子縁組をして家族になること。
それらを一気に伝えられた城ちゃんはひたすらびっくりしていて、話の間手に持ったビールのジョッキに一度も口を付けなかった。

「えーと……何と言っていいのやら……まずおめでとうございますのような、もっと早く言ってくださいよのような……。夏目に『神崎さんを悲しませたら許さない』……? 神崎さんに『夏目を頼みます』……? どれも言いたいことのような、違うような……すみません、まとまらなくて」
「仕方ねーよ、いきなり言われたら混乱するよな」

城ちゃんは言葉が見つからないことに本気で困惑している様子だった。それはオレたちの知ってる、いつもまっすぐにこっちを見て、ぐうの音も出ない正論をぶつけてくる城ちゃんとは違って。オレはふと思ったことを口にした。

「城ちゃんさ、どーでもいいんじゃない?」
「なっ、何を言うんだ夏目」
「どーでもいいってこたねーだろ……」

神崎君に呆れた視線を向けられる。オレは考えながら続けた。

「うーん……何て言うのかな、いい意味で。だって城ちゃん昔なら、自分も組に入りたいって言っただろうし、三人のうちオレたちふたりが恋人だったらもっと複雑な気持ちになったと思うよ。飛鳥っていう他に大切な人がちゃんとできて、いい意味で一君のこと、ついでにオレのこともどーでもよくなったんじゃないかなって」

城ちゃんはぽかんとしながらオレの話を聞いていたけど、しばらくしてハハッと笑い、そのままほろほろと涙をこぼした。

「し、城山!?」
「すみません、情けないな……夏目、お前の言う通りだ。でも、まさか神崎さんたちから執着が薄れる日が来るなんて思ってもみなくて……」

オレの差し出したティッシュでビーッと鼻をかむと、はにかんで言った。

「心からおめでとうございます。それ以外はどーでもいいです、ものすごくいい意味で。大好きで信頼してるふたりの決断だ、心配も念押しもオレのすることじゃない」
「……ありがとな、城山」
「ありがと、城ちゃん」

その後は今度城ちゃんちに子どもが生まれるって話で盛り上がった。男の子だったら『一』って名前をつけたいけど、飛鳥に反対されてるらしい。神崎君も嫌そうだった。
たくさん笑った。他に大切なものが増えて、時々思い出しては幸せを祈るくらいになっても、オレたちは一生神崎組だ。そう思った。

* * *

「一君、腕と足一緒に出てるよ。緊張しすぎ―」
「するわ超するわ! 男同士にヤクザに養子縁組だぞ!? どれくらい壁のあるごあいさつだと思ってんだ!」
「もうオレから話通してあるって言ったじゃん。今日は形だけっていうか顔合わせみたいなもんだから大丈夫だって―」

オレの家と神崎君のあいさつは母さんだけ来ることになった。父さんは反対はしないけどまだ受け止めきれないらしく。

「普通の人なんだよ、うちの父さんは」
「お袋さんは……?」
「うーん、あんまり普通じゃないかな……」

場所はホテルのティールームで、母さんは時間ぴったりにこぎれいなワンピースを着て現れた。ちなみに神崎君も今日は背広に似合わないネクタイを締めている。

「はじめまして、慎太郎の母です」
「か、神崎一と申します。きょ、今日はいらして下さって、ああありがとうございます」
「あまり構えなくて大丈夫ですよ。大体のことは息子から聞いてるので」

神崎君のぎくしゃく具合が面白すぎて、オレは笑いをこらえるのに必死だった。ていうかこらえきれなくて噴き出して、母さんが神崎君に変な子でしょ、と言う。

「それでですね、次の春から慎太郎君に家業を手伝ってもらうことになったのですが、その家業というのが……」
「ああ、ヤクザでしょ。それに関しては特に意見ありません。もともと最初からカタギの仕事に就いたと思ってなかったもの。今までヤクザじゃなかったって聞いて驚いたくらいよ。就職してから妙に羽振りよくて、海外旅行だの新車だのぽんぽんプレゼントしてくれるんだから」
「お前何してんの……」
「えー、親孝行?」

だって姫ちゃんとこ給料高すぎなんだもん。

「でね、母さん。話したと思うけど、一君とオレ、六年間付き合ってるんだよね」
「この度慎太郎君と養子縁組をさせて頂きたいと思っています……慎太郎君を僕に下さい。優しくて強い慎太郎君を、僕なりに愛しています」

愛しています、なんて言われると思ってなかった。ふたりきりの時もめったに言ってくれない神崎君が、こんな場でそんな言葉を使ってくれたことに胸を打たれて、手出しするつもりはなかったのについオレも口を挟んでしまう。

「一君はいつも一生懸命で、オレも隣で頑張りたくなるんだ」

母さんはイエスともノーとも言わず、紅茶を一口飲むと、神崎君に尋ねた。

「神崎さん、あなた、この子が結構頑固なとこあるの知ってる?」
「はい……ちょっとは」
「子どもの頃から勉強もスポーツも何でもそこそこ出来るのに、何も真面目にやってみようとしないの。何もやりたくない、何も欲しくない、ってことにかけてはすごく頑固で、この子はいつか何か見つけられるのかしらってずっと心配してたわ」
「……出会った頃のこいつは、確かにそういう奴でした」
「だから慎太郎があなたを見つけたなら、どうぞもらってやって下さい」
「……母さん」
「そうそう、あんたこれ実家に置いてったでしょ。渡そうと思って持って来たのよ」

そう言って鞄から取り出したのは、手のひらに収まるサイズの宝箱。中三の時に埋めたタイムカプセルの中身。母さんはあなたが開けてみて、とテーブルの上、神崎君の前にずいと置いた。
オレは二十歳の成人式の日に開けた。中身は覚えてる。短いメッセージが書かれた短冊状の紙だ。

『入れたい大事なものは見つかりましたか』

「見つかったじゃない、ちょっと大きすぎて入らないけど」
「……お前ってほんとキザな」
「勘弁して……」

盆と正月くらいは顔見せなさいよって言われて別れた。
オレは途中で気づいていた。母さんのソファの後ろの席で背を向けて座ってるのが父さんだってことに。
オレは見ないふりをした。解散した後母さんがハンカチで目元を押さえて、父さんがその肩を抱くのを。
放任だと思っていたけどオレはちゃんと愛されていた。外に出てあー緊張した、って息を吐きだす神崎君の汗のにじむ手に指を絡める。普段なら人前ではダメだってふり払われるけど、ぎゅっと握り返された。

* * *

神崎君のお父さんからは自分と養子縁組をしないか、一とは兄弟の方が自然な気持ちになれるんじゃないかっていうあたたかい申し出があったけど断った。家のお金の相続がややこしくなってしまうから。
神崎君とはただ家族になるって感じで、親子という意識はない。一回「パパ☆」って呼んでみたらグーで殴られたし。

そして春が来て、正式に契りを交わす日がやってきた。
ヤクザの盃事って昔はたくさん人を集める大がかりな儀式だったらしいんだけど、今回は身内、神崎君の家族だけでやることにした。

「一君は和装似合うねー、板についてるっていうか」
「そういうお前は似合わねーな」
「うるさいなー、これから似合うようになるもん」

黒の羽織袴を着て神崎君と広間で待機していると、お父さんに廊下へ呼び寄せられた。着物姿の零さんと奥さん、二葉ちゃんも揃っていて、スマホのカメラを向けられた。
神崎君がいつかのように中指を立てるから、オレは苦笑して隠す。

「よし、わしのかわいい息子と娘と孫たちが撮れた。新しい待ち受けにしよう」
「じじい、二葉の写真じゃ不満なのかー?」
「慎太郎君も入れて五人、二葉ちゃんひとりの五倍の心強さじゃ」

抗争に巻き込まれて神崎君がケガをした時、お父さんが二葉ちゃんの写真の待ち受けを一日百回は見てると言っていたのを思い出した。少しでも慰めになるような、いい孫になろう、とそっと心に決める。

組に入って親分と子分になるって誓いと、男同士で家族になる、結婚の代わりのような誓い、どちらの意味も込めて三三九度を行うことになった。
城ちゃんの結婚式は教会式だったから、オレは見たこともなくて、しきたりや作法を必死にググった。
えーと、お神酒の注がれた盃を神崎君が三回に分けて口にする。その盃にオレも同じように口を付ける。小中大と盃の大きさを変えて交互に飲んでいく、んだよね。
隣に立つ神崎君はきりっと顔を引き締めて堂々としていて、オレも慌てて背筋を伸ばす。

「一の盃をご自身の覚悟をもって三口で飲み干してください」

今年でオレたちは二十七歳。石矢魔を卒業してから九年経つ。
一年目、もう二度と会わないくらいの気持ちだったのにあっさり無人島で再会しちゃったよね。顔を合わせたらやっぱり惹かれちゃって、それでも身を切るような思いで何でもないふりしたっけ。
二年目、成人式のカラオケでばったり会って、でも『小さな恋のうた』に阻まれた。オレまだあの曲トラウマなんだけど。タイムカプセルに入れてた宝箱、入れたい大事なもの見つかったよって中三のオレに教えてあげたい。
三年目、ひと夏を過ごした海水浴場で、ついにオレたちは高校時代の誓いを破ってよりを戻してしまった。勢いも運命や神様のいたずらもあったけど、その選択が間違いだとはどうしても思えなかったんだ。

「二の盃を先方のお気持ちを確認の意を示して三口で飲み干してください」

四年目、結局ろくな就活はせず、髪も切らないで済んだ。神崎君への気持ちの証として、きっと一生長いままなんだろうなって思う。この頃はそれまで離れていた分を取り戻すみたいに思いきりいちゃいちゃしたな。
五年目、仕事を始めたての頃、思い出すのはふたりで行ったキャンプだ。テントの中でキスしようとしたら頭突きし返されたのは忘れられない。抗争の話が出だして、組に入りたいって気持ちが強まっていったのもこのあたり。
六年目、同じ傘下の組の抗争に巻き込まれた神崎君とは、ホテルでこっそりとしか会えなくなった。神崎君はひどくやつれきって、ふたりの関係も危うくなったけど、粘って隣に居続けて本当によかったと思う。

「三の盃を神明に誓って三口で飲み干してください」

七年目、城ちゃんの結婚式があった年だ。当日倒れたお父さんはすっかり元気になったみたいで安心した。神崎君の代打で読んだスピーチでは、お互いのために頑張り合える関係は尊いと、うらやましいと言った。オレたちもこれから晴れてそういう間柄になれるんだね。
八年目、邦枝に頼まれて行った沖縄で、神崎君はついにオレの組に入りたいって申し出を受け入れてくれた。家族になろうってサプライズまで付けて。その後お揃いで作った指輪は、今も盃を持つ左手の薬指に輝いている。
そして九年目の今日、大きな盃のこの最後の一口で、オレは夏目慎太郎から神崎慎太郎になる。

『一目惚れみたいに、この人についてったら絶対退屈しないってなんでか知らないけどビビッと思ったんだよね』

そんなあいまいな理由で始まった神崎君とオレの関係。最初はこんなに長く続くと思ってなかった。
だって夏目慎太郎はいつも笑顔でスマートで、熱血も本気もキャラじゃなくて、誰かと一緒に居続けるために必死になるなんてあり得ないはずだったから。
適切な時期にさよならして、神崎君の中できれいな思い出として淡く残ったらそれでいいって、高校の頃は考えていた。
でも、オレのこだわっていたオレらしさと天秤にかけても勝つくらい、愛してしまった。
かっこよくてかわいくて、優しくて甘くて脆くて弱くて、それでもその背中にたくさんのものを背負おうとしているこの人を愛してる。
右腕として、家族として、一生支えて守り抜く、それこそがオレが生まれてきた意味なんじゃないかと思う。そう言ったら笑うかな、呆れるかな。
神崎君の孤独や重荷や弱さを一緒に抱えるために生まれてきた。
ばいばい、夏目慎太郎。
覚悟を腹に、幸せを胸に抱いて心の中、大きく手を振る。

* * *

そして迎えたオレの初仕事の日。
朝、ぴかぴかの黒塗りの車を玄関先につけ、神崎君が現れるのを待つ。
梅雨入りはまだだけど空はくもり。カーラジオからはジューンブライド特集で、ちょっと前に流行った取扱説明書に例えて歌うラブソングが流れている。鼻歌を重ねながら何となく聴き入ってしまっていると、あ、家の門が開いた。音量を絞って車から降りる。

「若、おはようございます。今日からよろしくお願いします」

頭を下げたオレの姿を見て、神崎君は少し後ずさりした。今日のオレは神崎君に連れて行ってもらったお店で仕立てたオーダーメイドのスーツに初めて袖を通し、髪もワックスで後ろに撫でつけ一つに結んでいる。
回り込んで後部座席のドアを開けてあげれば、何か言いたげな表情のまま乗り込んだ。
発車してしばらく、神崎君は専用のクーラーボックスからヨーグルッチを取り出してすすっていた。信号で止まったタイミングで視線を泳がせながら呟く。

「……新しいスマホ買ったばっかの気分」
「んー? どういう意味ー?」
「ゴラ仕事中は敬語。何つーか、今日のお前……きれいすぎて、扱うのがおっかねー」
「……」
「……」
「……仕事中にラブラブ感出すのはいいんスか」
「うるせーな! お前が! そんな歌鼻歌で歌うから!」
「え? オレ何か歌ってた?」
「アレだろ、西野カナの、放っとくなとかしょっちゅう褒めろとかめんどくせーやつ」

ああ、さっきまでラジオで聴いてた曲。無意識に鼻歌してたみたい。

「それで褒めてくれたの?」
「黙れ忘れろ信号青だぞ」
「じゃあ着くまで神崎慎太郎の『トリセツ』ね。確かにオレはきれいかもしれませんが、」
「自分で言うのかよ」
「傷がつくのを恐がるより、いっぱい触って持ち歩いてくれた方が嬉しいです」
「……フン」

掘り返すと恥ずかしい思い出があるのはお互い様。若かったんです、仕方ありません。
涙は実家に置いてきたつもりです。万が一めそめそしてたら蹴っ飛ばして励ましてください。
オレの人生を思いやって別れようって言うのは余計なお世話です。二度とやめてね。
決して独りで抱え込まないでください。オレにも頑張らせて。

「こんなところかなー」
「……お前って男らしいな」
「そりゃ男だもん」
「そうだけどよ……今元の曲の歌詞ググったら二番はもっとわがままっつーかうぜー感じだぞ。記念日にはオシャレなディナーとか、手紙が一番嬉しいとか」
「若、手紙書いてくれるんですか」
「誰が書くか」
「だと思ったよ……」

別にいいけどね、あれしてこれしてって言う若い女の子とオレは違うし。

「……でもさ」
「あ?」
「今すぐじゃなくていいから、いつかやってみようよ。記念日も手紙も、柄じゃないなんて言わないで。長い人生だもん、色々やろう。一君とだったらきっと何でも楽しいよ」
「……慎太郎」
「はい」
「……好きだぞ」
「ふふっ、仕事中ですよー?」

神崎君が身を乗り出して後ろで結わえた髪を引っ張るから、オレはまた笑う。
これからの日々が全部こんな風にいちゃいちゃでラブラブなわけじゃないのはわかってる。出会ってからいろんなことがあった。でも隣で生きていくって決めたから。
とりあえず今日の夜は、仕事終わりにあの観覧車に乗りに行こうか。